東京地方裁判所 昭和42年(ワ)5323号 判決
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〔判決理由〕<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
昭和四一年一一月三〇日午後五時頃、被告荒蒔は被告会社のタクシーを運転し、後部座席に客二人を乗せて上野鈴本亭の前に停車していた。交通渋滞して車は一寸刻みで動く程度であり、被告車は片側三列に並んだ最左端の一列に並んでいて、、歩道端から一米五〇糎離れていた。その時その歩道と車列との間を原告は後部荷台に空籠を載せたホンダベンリー号一二五ccに乗つて進んでいたが、被告車の横を追抜くとき車の左側後部ドアが空然開きかかり、単車の右ハンドルとドアの端の方と接触したため転倒した。
このドアは、運転手席のレバーで操作できる自動ドアであつたが、後部客席でも開閉しようとすればできた。運転手たる被告荒蒔はこのレバーを操作した形跡はない。
この認定事実に基づいて被告荒蒔の責任を考えるに一方においてドアが開いた事実が認められ、他方において運転手席のレバーは操作されなかつたと認められるのであるから、後部客席の客が勝手に開けたものと推定する外ないのであつて、一般にこのような場合、当然に運転手にドア開閉についての責任を帰することはできない。しかしながら、本件の事案においては、乗客が大手町から「上野まで」と指示して乗車したことが被告荒蒔の供述により認められること、前認定のように、事故当時既に上野鈴本亭の前に来ていたこと、被告車は一番歩道寄りの列に並んでいたこと、しかも、渋滞のため一寸刻みで進行する程度で、事故時には停車中であつたこと、事故後乗客は二〇〇円を置いて立ち去つたこと等を考え合せると、右乗客は、本来なら、上野方面中での目的地点まで行つて貰うつもりであつたが、右のような渋滞に業を煮やし、下車を試みたものと推測できるのであつて、前記のような諸事情が合する場合、乗客がそのような行動に出る可能性を予見することはタクシー運転手として必ずしも困難とは思われず、そうであれば、被告荒蒔は上野界隈にさしかかつて以後の渋滞停車中、目的地点を正確に確かめると同時に勝手な下車を禁止するために乗客に言葉を掛ければ良かつたのである。従つて、右のような条件の揃つた場合にあらかじめ乗客に対し接触を持たなかつた運転手は、乗客が勝手にドアを開いたための事故についても注意義務違反による過失ありと言わざるをえず、もとより、その損害賠償責任は乗客と並んで負うべきであるが、民法七一九条の適用上損害の全部について賠償すべきである。(倉田卓次)